寺月恭一郎の夢小説。
恋愛要素はない。
夢主、月替令(つきせりょう)。
女子高生の一般人トレーダー。
原作の『ペパーミントの魔術師』『ディシプリンSIDE3』、私が他で書いている夢小説を読んだことがあると楽しめる要素が増えます。
変な男が携帯を仕舞い込むと、私に話しかけてきた。
「やあ、君。一つ賭け事をしないか?」
その顔は見たことがある。一般的にも知られているだろうし、この界隈にいるものなら知らない者はいるわけがない。
「えーと、寺月さん……でしたっけ?一体何の用です?」
「いやなんてことない遊びに付き合って欲しいんだ」
このMCEの社長、寺月はトリスタンでナンパという時代遅れなことをしてきたのだ。
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私、月替令は高校に通いながら株の取引をしている。所謂トレーダーというやつである。トレーダーといっても私はあくまでも代理で金の管理をしているに過ぎない。一介の女子高生に任せるとは正気を疑うが、預けた相手も金の使い道がないから代わりに使ってくれという。こんな社会人が警察官をしているのだから世の中はどうなっているのだろう。
株取引は難しいとされるが、覚えてしまえば難しいことはない。覚えるまでというところの制限がまったくないのが難点だが。
株の取引で重要なのは価値の流れを知ることだ。有名人がぽつりとある企業のことを話すだけでも価値は変動する。従来のイメージと上書きされる。いいイメージが付けば悪いイメージも付く。私たちはそこを見極めてイメージから掛け金をいれなければならない。
しかし、株は賭け事ではないが、それでも不足の事態は起きる。世界の出来事すべて量ることなんて誰も出来やしない。
そう、これは不足の事態。
目の前にいる男はまさに不足の事態。
世界情勢を知っていればこの男を知ることになるのは当たり前だ。
寺月恭一郎。MCEという企業の社長。会社そのものは彼のみという独自の形態だが、傘下の企業は星の数ほどある。私が投資している企業もかなり彼の息が掛かっている。間接的なら嫌でも目に入る男が物理的に視界に入ってきて接触してきた。
場所を変えようと寺月の提案を飲んで、指定した場所はあるデパートの地下にあるクレープ屋。
女子高生が好みそうな場所だが、私はこういった場所は好まない。寺月はそれを知るわけがなく、クレープを二人分注文し席に着かせる。
寺月が選んだのはスッキリ甘々チョコミントというどっちなのかはっきりしないクレープで、私が渡されたのは酸っぱいのは苺か蜜柑かベリーオレンジという知らんがなといいたくなるクレープだ。
悪くないなどいいながら食べる寺月だが私は気まずさで壁を見てしまう。
ごてごてと女の子というのはこれを求めていると考えているのが嫌でもわかるデザインた。ファンシーな絵柄の果物屋とフリルの飾りと寺月を交互に見てしまう。視線に気づいた寺月はこちらを向く。
「食べないのか?早く食べないとアイスが溶けるぞ」
「はあ」
「ここのアイスは美味しいぞ。何て言ったって魔法使いが作っているからな」
「は?魔法使い?」
中年の男の口から魔法使いが出るとは思わず、引いてしまうが、誰のことなのかはすぐに思い当たる。この店は期間限定でペパーミントウィザードとかいうバカみたいに高い店とのコラボでアイスが変わっているのだ。
彼の言う通り、このままだとアイスが溶けるのでクレープを食べる。確かな商品名に違わず酸っぱい。すっぱいがアイスそのものはガツンとくる甘さで舌が麻痺しそうだが、クレープの生地はさっぱりとしているのが救いだ。
寺月も私も食べ終える。
「で、賭け事ってなんです?」
寺月は指を指す。デパートの上階から降りるエスカレーターだ。ちょうど女子高生が降りている。見知った顔だが、それは寺月には関係のないことなので黙っておいた。エスカレーターはそこから人が降りてこない。
「これから降りてくるのは女か、男か、それを賭けようじゃないか。君はどちらだと思うかね?」
寺月は座した後は一切エレベーターを見ずに私を見据える。
「答える前に、何を賭けるんです。一介の女子高生なんて価値は対してないですよ」
「おや意外だな。降りないのか」
「降りるなんて恐ろしいこと出来ませんよ。断ったら何をされるのやら」
「何、金も行動でもない。時間さ。君の時間を少しばかりくれないかと思ってね」
「現に取られてますが」
「今の今までは交渉の時間。それ以外というものだよ」
「屁理屈だわ」
「なんとでも。さて、君からの勝利の品は何かな?まあ、大抵のものなら叶えられるだろうが、程度は考えたまえよ?」
「…………秘密はどうでしょう」
楽しそうな寺月の顔が一瞬、狡猾な狐のような怪しい目付きになった気がした。
「なるほど。そうか。いや」
「別に秘密と言ったって、おっさんが友達とか、口笛が上手いやつと友達とかの程度でもいいんで」
「君の友人は個性豊かだな」
「そいつはどうも。で、別のにします?」
「いや、その要求で構わない。私が負ければ一つとっておきの秘密を教えてあげよう」
「なんです?まさか人間じゃないとか?」
ぷっと彼は吹き出した。何がおかしかったのだろう。
「それは言うまでの楽しみとしてとっておいてくれ。まあ、とにかく次が来るのはいつになるか分からない。君はどちらを選ぶかね?」
「……男性にします」
「その根拠は?」
「さっき女性が来たなら次は男性の方が繋がりは綺麗だろうなと。寺月さんは?同じでもいいですよ。それしたらまた年齢層って区分訳でやりますし」
「私はそうだな……」くすりと笑ったように見えた「そのどちらでもない、だな」
「それって、どういう……」
私が首を傾げる間もエスカレーターは動き、人影が見えた。
「……!」
じっと息もせずに見てしまう。
出てきたのは派手なスーツを着こんだ男だった。男ということは私の勝ちになってしまう。勝っても負けても面倒なだが、勝つ方が面倒なのだ。秘密を教えろと言ったは良いが下手なことを教えられるのも面倒だ。どう最小限の規模に治めようか考えると、
「ちょっと!待ちなさい!こら!」
少し、耳には声音と言葉遣いに耳慣れない声が聞こえた。
「?」
疑問が浮かんだが、そう誰とは思わなかった。出てきてからずっと見ていたのだから。
出てきた派手なスーツの男は女性のような言葉遣いで電話をしている。通話今もなお続けており、最初に言った声から音量を抑えているので明瞭には聞こえないが、それでも「……ね!……よ!」と言葉遣いが女性のような言い方なことには変化がない。
「………………」
これはどちらにあたるのだろうか。言葉遣いが女性のようでも、人の好みは様々で、まさかこんな遊びごとの為に聞くなんて出来ない。
寺月の方を見る。彼も、なんだか目を少し開いて、うつむいて笑いに耐えている。
「あの、これって」
「君はどちらがいいと思う?」
彼は笑いすぎて涙まで出てきてしまっている。
「じゃあ……引き分けということで。あれじゃあどっちだか分かりませんよ……」
「そうだな。引き分けということなら、勝敗が付くまでやってみないか?」
「賭けている間の時間を、ってことですか」
「そういうことだ」
今のとさしてあまり変わらない。勝敗が付くまでなら少なくとも次回で終わるだろう。
次に彼が勝ったのなら、私の時間を本当にどうするつもりなのだろうか。
何をされるか心配ではあるが、直接的な被害はないと直感が告げている。
会計を終わらせ、クレープ屋から出ると寺月が携帯を取り出した。
「さて、私もからもとっておきの秘密を明かそうか」
心拍数が僅かに上がった。期待をしていない訳ではない。しかし過度な期待をしないようにとは思っている。
寺月は答えずにどこかに電話を掛ける。
私は嫌な予感がした。
通話を終え、しばらくすると先程の奇妙な言葉遣いの男と賭ける前にエスカレーターから降りてきた女子高生がやってきた。
女子高生は私と寺月を交互に見て、
「そういうことでしたか……」
と呟いた。
「会長……これはどういう?」
「まあ、セミさんは後で説明してあげるならちょっと静かにしてて」
さっき私は寺月に言った。「おっさんが友達」がいる友人のことを。そのまさかである。友人は状況を完全に理解して苦笑いしている。
私に話しかける前、この男は携帯電話を操作していた。そこからは一切携帯電話に触れていない。つまるところ……
「図ったなー!」
何から何まで彼の思わす通りだったのだ。この下らない賭けをするために。
「最終的な判断は君に委ねたじゃないか」
あまりにも楽しそうに笑った寺月に向かっ腹がきて容赦なく鞄をぶつけたが、易々と受け止められてしまった。
2コメント
2019.04.12 12:08
2019.04.11 13:52