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主五割不在。落ちもない。CP要素はない。ただスクイーズが頑張っているだけの話。
以上を踏まえて読んでね。
ああ、主とスクイーズに関しては昔からの表でも裏でも知り合いだよってくらいの認識で。
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痛みしかない。全身が切り刻まれ、腕は右腕はろくに動かせない。肺には傷がないのは幸運だったといえよう。切り札でもあるこの肺に損傷があれば持ちこたえられるか分からない。
持ちこたえなければいけない。自分が倒れれば次に狙われるのは彼女だ。自分がどんなに怪我を負おうが構わない。この程度の痛みなど慣れている。
町から離れて山に入り、機構の施設に彼女を匿っている。彼女だけなら敵から狙われることはないだろう。攻撃手段は彼女よりも自分の方が優れている。
後ろから狙撃の音が聞こえる。距離はまだある。
記憶を植え付けられた人間は一体何人いたのか計り知れないが、人間よりも遙かに身体能力があるスクイーズでもこの人数を近距離で戦わされては消耗も激しい。スクイーズにも合成人間として持つ特殊能力もあるが、状況が悪すぎる。一度でも打てればこの場にいる者は一網打尽出来るだろうが、三秒のタイムラグは大きすぎる。それに、この林は衝撃を受け止め、全てを仕留める事は出来ない。一人でもここから逃しては意味が無い。
ふくらはぎに痛みを感じて膝を落してしまうが、直ぐに木の後ろに隠れる。痛みに耐えながら裾を切り、止血をする。移動にはまだ支障はないが、血痕で場所がばれてしまうだろうが、彼女の元に行かないだけマシである。
(このまま引き付けられれば一気に方が付けられる)
肺に空気を溜め込み、チャージを行う。足音がどんどん近づく。三秒がこれほど長く感じることはないだろう。
発射の為に木から顔を出し、視認したのは敵が倒れる姿だった。
木々とスクイーズを狙う人間が次々と穴を開けて倒れる。
今の攻撃は人間のものではない。合成人間の特殊能力によるものだ。
(カチューシャか……)
彼女も中身を上書きされてしまったらしい。
(あの子が来てくれれば解除してくれるだろうけど、それじゃあ意味が無い)
出来れば倒さずにしたいが、今のスクイーズ の手段では難しい。
距離は凡そ二キロ。小高い丘の上にその姿が確認出来た。顔は無表情で、こちらのことは見えてないないが、狙う人間達の姿で大凡の場所は分かるのだろう。彼女の能力は大雑把な攻撃だが、砲撃型合成人間でも特に広範囲に滅するのが特異なのだ。
小さい体躯が無慈悲にこちらに向けて攻撃を放つ。木々は大穴を開けてなぎ倒されていく。
不味い。スクイーズは走る方向を変える。視界が広がるのはスクイーズにとって能力を発揮しやすいように思えるが、逆だ。姿が見える状態で砲撃姿勢をしてはいい的だ。
これまでスクイーズを狙っていた人間もろともカチューシャの“オルガン”は破壊していく。
人の形も木の形も穴を開けてその姿を削らされていく。
移動しながらスクイーズはオルガンの破壊力に戦慄する。“アハト・アハト”のように特定の的に当てるタイプならば自分に砲撃されるので、的が決まっていてわかりやすい。オルガンは“あてずっぽう”に的がいる場所を破壊していくので、どこを狙っているのか分からなくて避けるのが難しい。
走りながら逃げ回るが、このまま逃げ回ってしまってはあの施設も砲撃の範囲に入ってしまうだろう。
スクイーズも能力を使うのはこの人間たちをまとめてから使う気だったが、相手が合成人間と来てはそうもいかない。最悪カチューシャだけでも仕留めておかなければいけない。
足首に何か掴まれた感触があった。半身になってもまだ生きている敵がはいずりながらスクイーズの移動を妨げる。敵はオルガンの狙撃で腕が破壊されるが、この隙でスクイーズも狙撃を受けてしまう。
スクイーズが痛みに耐えた合間に次の狙撃が来る。二の腕を掠めて肉を削ぎ落とした。動きが鈍るスクイーズを敵が抑えていく。
蹴り落しても、振り落しても足を、腕を、掴める。
ぼろぼろの敵に掴まれてもオルガンは発射されていく。
その一撃が明らかここに落ちるのが分かった。今砲撃をしても掴んでいる敵は吹き飛ばせても自分は結局反動で別の狙撃を受けだろうし、カチューシャに向けて砲撃しても放てるまでに自分が直撃してしまう。
(ここまでか)
死の雨だ。落ちる先に何があろうと破壊の限りを尽くす。
遠方の施設を目線だけ向ける。場所を知らぬものからすればただの山肌を見ているだけだろう。
(あの子はもう起きて逃げているかしら)
気絶してからそれなりに時間が経っている。ベッドの側にすぐ逃げるように置手紙を置いたのですぐに目が行くはずだ。読んでいてもおかしくない。そのまま大人しくここから離れてくれればいいのだが。
砲撃が弧を描いてスクイーズの周りに落ちる。
おかしい。狙撃が外れるだけならこんな風にはならない。これは誰かがオルガンを逸らしたのだ。オルガンの動きだけを。
一人しかいない。しかし、それが出来るのはあの施設にいるはずだ。
後ろから息を切らした声が聞こえた。
「あのさ、GPSでもいいからいる場所ぐらい教えておいてよ」
スクイーズが振り向くと、彼女がいた。おかしい。施設にいたはずだ。書置きもすぐそばに置いたので、読んでいるはずだ。なのに。
「……なんで……なんで来たのよ!」
思わず蟬ヶ沢の時の言葉遣いが出たが、彼女の前では訂正する気も起きない。彼女の前ではスクイーズとしてもこの言葉遣いでいる時が多いせいか、どうしても“こう”なってしまうのだ。
「殴られたお返しをしに来ただけ」
彼女は大げさにスクイーズに気絶する際殴られた後頭部を擦り、空いた片手でスクイーズの背を叩く。
思ったよりも容赦なく叩かれてよろめくスクイーズだが、来たことに怒りはない。むしろ、来てくれたことに安心したのだ。
スクイーズの前に彼女が立つ。彼は彼女に後ろに下がれとは言わない。自分が前に出ては邪魔になると分かっているのだ。
眉間に皺を寄せつつ、カチューシャの砲撃を逸らしながら彼女は話す。
「ピンポイントでセミさんを狙ってる人がいるけど、あの人はどこの合成人間?」
「カチューシャよ」
「どうりで森林伐採が上手い訳ね。あとで業者に連絡してあげようか」
「冗談は終った後にして頂戴。もう来ちゃったものはしょうがないわ。カチューシャのところまで連れて行くから解除して」
「了解」
砲撃が止むと同時に彼女を抱えてカチューシャの元に向けて走る。
*****
カチューシャの側には人間の姿も例の標的の姿もいない。一人だけだった。
二人を視認したカチューシャだが、手をこちらに向けただけで撃とうとはしない。撃てないのだ。
彼女はカチューシャに近づくと額に手を触れる。びくっと彼女を掴もうとする動きをしたが、痙攣のように身を一度震わせただけでそれ以上は動かない。
額に触れていたのはそれほど長くはない。一秒もかからなかった。瞬きを一度すると、カチューシャの顔は正気のある顔に戻った。
カチューシャは怪訝な顔で彼女を見たが、すぐに状況を理解した。
彼女は手を放し、これまでのことを説明した。
この記憶を上書きする者は無差別ではないが、多くの者に処置を施している。人の記憶をコピーし、他者に植え付ける。軽い者ならこうして彼女や多少脳を弄れる能力を持つ者で解除することが出来るが、記憶の植え付けが深く顔が変質してしまうほどの者は手遅れだという。
スクイーズと彼女は、以前よりこの記憶を植え付ける者を探していた。探している間で敵がこちらの存在に気づき、記憶を植え付けられた敵に襲われたのだ。
カチューシャは記憶が上書きされていた状態のことは覚えていないらしく、標的のことも覚えていなかった。
カチューシャが五体満足で戻ってこれたのは良かったが、この麓にはまだ上書きされたままの敵がうろついている。
殲滅すればいいじゃないとカチューシャが提案するが、彼女は別の提案をしてきた。
「カチューシャさんには別のことをお願いしたいんです。この人をあの施設まで連れて行ってくれますか?」
「それは別にいいけど、あんたは?」
「この麓にいる人たちを戻してきます。生存している人に限りますけどね。後で医者でも呼んできてください」
カチューシャは眉間に皺を寄せながらため息を付いたが、早く行くぞと言わんばかりにスクイーズの裾を引っ張る。
「待ちなさい。貴女じゃ、あの人数を処理しきれないでしょ!?」
三人が話している間にもあの敵達はここに向かっている。その数がどれほど多いのかも。それは彼女が一番理解しているはずだ。
スクイーズの焦りに反して、彼女は能天気に腕を伸ばし準備運動をする。
「行ってきなよ。二人にはこれ以上……。ま、そんなことはどうでもいいから早く行ってここの木の射撃も停止させてよ」
指揮者の様に手を動かして上書きされている人間達を倒していく。倒れた人間達は細かに痙攣しているが、しばらくすると気絶していく。
何をしているのか分からないが、恐らく脳の神経や、神経を弄っている。しかし、そこまでの繊細は作業は彼女には負担が大きい。操作よりも視る方が本来の力なのだ。
「私が戻るまで、戻るまでは保ちなさいよ!すぐに戻るから!」
忘れ物を取りに行くのを見送るように軽い調子で手を振って、彼女は振り返らずにスクイーズを送った。
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漫画のコマだけ考えて構成が決まらず、現実逃避状態で書いてました。
描きましょ。_(:3」∠)_
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