一握りの救い

 その日のスクイーズは憂鬱だった。彼の日常はどちらかというと表向きの仕事の方が多く、裏の仕事は雑務がほとんどだ。

 今回の任務は規定値を超えた人間達の処理である。スクイーズの能力は一人だけ殺すのにも大勢を殺すのにも向いてる。今回の任務には打ってつけだと判断され白羽の矢が向かったのだ。

 スクイーズはこの任務が好きではない。処理をしているのは人間だが、この任務の目的の大本は人間を守る為……らしい。守るべき対象を処分して意味があるのか。

 従う以外には許されない。命惜しさでもこの仕事にはついている。自分だって死にたくはないのだ。

 でも、何か、何かこの仕事にも意味があると……。

「スクイーズだっけ?よろしく」

 は、とスクイーズは話しかけられ思考するのを止めた。

 話しかけてきたのはポリモーグと言う。スクイーズと同じ合成人間で、今回は任務の雑務処理役として同行してもらったのだ。

 ポリモーグは緊張感がないような、警戒心がないようなおっとりとした話し方で、少しだけどきっとしてしまう。自分がよく知る人物と少しだけ重ねてしまう。見目も、話し方も似てはいないが、そう……警戒していないところが。同業者だから警戒も薄いのは分かるが、彼女は合成人間の中でも特に緩い方な気がする。

「ああ、よろしく」

 歯切れ悪く言ってしまう。

 それぞれ配置に着こうと別れようとしたとき、通行人にぶつかる。

 ぶつかって来たのは女子高生だった。急いでいる様子で、会釈で謝罪をしすぐに立ち去ってしまった。 

*****

 血だまりを見ながら、ため息をつく。この血生臭い臭いは何度嗅いだことだろう。

 いつも、いつも任務をしながら自分は何をしてるのだろうと思ってしまう。守る対象も処理をする対象も同じ。

「おつかれ。あと一時間もしたらここは水で流すってさ。非難しておこうよ」

処理の対象が収容された施設の電気系統を担当していたポリモーグが戻ってきた。

 ポリモーグがスクイーズの元に駈け寄ろうとすると、手で制止した。

「そこからは血だまりなんだ、歩かない方がいい」

「うわ!ここまで血が飛んでいたんだ。サンキュー、スクイーズ」

ポリモーグは靴を裏返して血が付いていないか。確認する。スクイーズは苦笑いを

 施設から出ると、

「大丈夫ですか」

と声が聞こえ、先程の女子高生がスクイーズに声を掛けてきた。

 思わず、一歩後退してしまった。この距離なら風向きからでも臭いはしないだろうが、このまま来られては後を引き継いだ者と鉢合わせになる可能性が高い。

「血が出てますし、怪我をししているんじゃないですか」

「だ、大丈夫よ」

一瞬、隣にいたポリモーグが見開いていたのが見えたが気にしていられない。

 心配げに見ていた女子高生もスクイーズが困っていること

を察したらしく、ハンカチを取り出して渡してきた。

「よかったら、これで血を止めてください。それじゃあ、気を付けてくださいね!」

 女子高生が充分に離れたのをスクイーズは深く溜め息を付いた。

 走っていく女子高生にいいの?とポリモーグがスクイーズを見る。

「ああいうと、一度だけでも世界を救った気にならないか?」

と少し嬉しそうに竹田と会う女子高生を見る。

 後から眼鏡の女子高生も二人に声をかける。

 かもねとポリモーグも微笑みながらスクイーズの言葉に賛同した。

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