2018.11.18 22:00ジェンガの下の蜘蛛の糸 彼女はいつものように蝙蝠のようにぶらさがって彼を見つけると、溜め息をついた。しかし、それ以上は話しかけることも、近づくこともしない。彼の行動をさまたげてはいけないと思ったのだ。 彼はぶらさがっている。何本ものの鉄骨がジェンガのように重なっただけの鉄くずの山の端から伸びた一本に洗濯物のように足が掛かっている。その一本は「そこの」男にいきなり話しかけられ、生瀬は思わずびくっと一歩下がりかけるが留まる。「足元にあるコンクリートの塊があるだろ。そいつをどかしてみろ」生瀬は息を飲む。生瀬の足元にコンクリートの塊がある。その下にはピンと張ったロープが抑えられている。ロープの先を見ると、鉄くずの山まで伸びて、その先には男がぶらさがっている鉄骨の先端に結ばれている。...
2018.11.05 22:00呼び声 うっすら明るい空の下で荒野を歩く筒がいる。 歩く度に形は崩れ、体はぼろぼろと何かの固まりとして落としていく。 歩きながら、視界の端々では見たことがある死体が転がっている。 死体は白衣を着た女性、高校とおぼしき制服を着た女子学生。男子学生もいる。更に、転がる死体には人ではない何かも転がっている。何かの巨大な肉片は巨大すぎるあまり、ぱっと見るだけでは何か分からないだろう。恐竜の舌である。仕止め損ねた為か、それともまだ“向こう側”で生きているのか、切られた下はびくびくと動いている。転がる死体では唯一動いている。 思ったよりも多くないなと呟くと唇の端がぴしりと罅がはいる。片手を上げて、唯一の友に呼び掛ける。「竹田くん、聞こえるかい」一つ音を出すだけで皮膚は裂...
2018.10.07 03:00“例の顔”ううう、漫画の本を落したので、代わりのものをイベントで頒布します_(:3」∠)_最後に知らん人がいます。やや注意。**** 蟬ヶ沢は満足そうに頷いて資料をまとめる。 新店舗の装飾の依頼が入り、予定通りに事が進みそうなのだ。 連れて行くスタッフを呼び、移動しようと席を立つと、鞄に入った携帯電話が振動した。 隣にいたスタッフが察して自分の携帯も確認するが、何も来ていないようだ。「ちょっと移動先に遅れるって連絡入れておいて、予定通りには来るけどちょっと寄るところが出来ちゃったわ」不機嫌というには無表情すぎる蟬ヶ沢を見て、スタッフはため息を付いた。**** スクイーズは浮かない顔をして交番近くのパーキングエリアに車を停めた。 端末からの情報によると交番で潜入し...
2018.10.07 03:00一握りの救い その日のスクイーズは憂鬱だった。彼の日常はどちらかというと表向きの仕事の方が多く、裏の仕事は雑務がほとんどだ。 今回の任務は規定値を超えた人間達の処理である。スクイーズの能力は一人だけ殺すのにも大勢を殺すのにも向いてる。今回の任務には打ってつけだと判断され白羽の矢が向かったのだ。 スクイーズはこの任務が好きではない。処理をしているのは人間だが、この任務の目的の大本は人間を守る為……らしい。守るべき対象を処分して意味があるのか。 従う以外には許されない。命惜しさでもこの仕事にはついている。自分だって死にたくはないのだ。 でも、何か、何かこの仕事にも意味があると……。「スクイーズだっけ?よろしく」 は、とスクイーズは話しかけられ思考するのを止めた。 話し...
2017.04.16 22:00チクタと化け猫 チクタはお腹に時計が埋め込まれたハリネズミです。お腹の時計を動かしてもらえるようにするために時計職人を探して、旅をしています。 あるときチクタは薔薇が沢山咲いている園へ迷い込みました。「ここはどこだろう?」見渡せどもあたりは白と赤の薔薇の世界で、いったい自分はいつからここに迷い込んだのかも分からなくなりました。道らしきところをたどると、誰かとぶつかりました。「あいたたた。ごめんなさい、怪我はない?」「ああ!急がなきゃ!って、そうじゃない、こちらこそごめんなさい。君こそ怪我はないかい?」ぶつかった相手はそういって、手を差し伸べました。チクタも相手へ感謝し、立ち上がる。「……よかった。ぼくはチクタ」「走っていた僕が悪いさ。怪我がなくて何よりだよ。僕は化け...