零
戦が終わった。
壱
奇妙なる男を見た。この暑さの中で着物を脱がない。終戦後、都を軸に商いの発展が目覚ましい。どちらが勝ちにもならなかったこの戦で買ったのは商人だ。身も魂も戦に置いてきたサムライは数知れず。異臭を漂わせ、思わず濡れタオルを差し出したが腕に一瞥し断られる。そこに何があるのか聞けなかった。
奇妙なる男を見た。この暑さの中で着物を脱がない。終戦後、都を軸に商いの発展が目覚ましい。どちらが勝ちにもならなかったこの戦で買ったのは商人だ。身も魂も戦に置いてきたサムライは数知れず。異臭を漂わせ、思わず濡れタオルを差し出したが腕に一瞥し断られる。そこに何があるのか聞けなかった。
— ❄翼⛄ (@kuchuburank) January 24, 2021
弐
サムライの本分は戦にありと言われていただけに戦がなくなってからのサムライ達の行動は収拾がつかなくなっていた。ゴロベエも同じくサムライだと話す。彼は野伏せりなどと異なり荒くれることはないが、何することもない。目的も何も無くなってしまったと語りつつ、視線を落し呟く「それでも生きねば」
サムライの本分は戦にありと言われていただけに戦がなくなってからのサムライ達の行動は収拾がつかなくなっていた。ゴロベエも同じくサムライだと話す。彼は野伏せりなどと異なり荒くれることはないが、何することもない。目的も何も無くなってしまったと語りつつ、視線を落し呟く「それでも生きねば」
— ❄翼⛄ (@kuchuburank) January 25, 2021
三
武家ではないサムライ、ゴロベエは日々の衣食住は日雇いと天候任せにしていると話す。彼の濃い体臭と寂れた臭いに目眩に堪えなから、今後生計を立てるならば芸を身に付けてはどうだと提案してみる。自身は一座の管理者だ。芸は身を危険に晒すのもあるがと説明すると、一瞬彼の目が光ったように見えた。
武家ではないサムライ、ゴロベエは日々の衣食住は日雇いと天候任せにしていると話す。彼の濃い体臭と寂れた臭いに目眩に堪えなから、今後生計を立てるならば芸を身に付けてはどうだと提案してみる。自身は一座の管理者だ。芸は身を危険に晒すのもあるがと説明すると、一瞬彼の目が光ったように見えた。
— ❄翼⛄ (@kuchuburank) January 26, 2021
四
戦の中でも一座は影響が無かったに等しい。根なしでどこにも属することがない故にどちらの軍にも居ないものとされた。今のゴロベエは一座に近い立場にいた。芸を覚えさせることに抵抗はない。ただのお節介だ。彼の頭に果実を乗せて、弓矢を構える。普通なら的役は戸惑うが、彼は静かに矢先を見つめる。
戦の中でも一座は影響が無かったに等しい。根なしでどこにも属することがない故にどちらの軍にも居ないものとされた。今のゴロベエは一座に近い立場にいた。芸を覚えさせることに抵抗はない。ただのお節介だ。彼の頭に果実を乗せて、弓矢を構える。普通なら的役は戸惑うが、彼は静かに矢先を見つめる。
— ❄翼@出陣 (@kuchuburank) January 27, 2021
五
これがサムライか。常に命とのやり取りをしていただけはあり、肝が座っている。あまりにも恐怖がなさすぎるのだ。どこかに置いてきたような目をしている。早く弓を引けとゴロベエが急かす。弓を引こうとした瞬間、鉄塊が文字通り吹っ飛んできた。二人とも更に先を見て驚く。ぼろな雷電が突撃してきた。
これがサムライか。常に命とのやり取りをしていただけはあり、肝が座っている。あまりにも恐怖がなさすぎるのだ。どこかに置いてきたような目をしている。早く弓を引けとゴロベエが急かす。弓を引こうとした瞬間、鉄塊が文字通り吹っ飛んできた。二人とも更に先を見て驚く。ぼろな雷電が突撃してきた。
— ❄翼@🍫延長戦 (@kuchuburank) February 22, 2021
六
雷電を視界に捉えた瞬間身が固まる。ゴロベエが蹴りで叱咤し、正気に戻される。“彼”だろうかと疑念はありつつ、人気のない森へ誘導した。鉄塊もとい安い機械化のサムライは姿を見たら追いかけられたと話す。雷電の刀振を避けつつ、主力をゴロベエに任せる。斬撃を軽々と避け、胴体を切り、無力化した。
雷電を視界に捉えた瞬間身が固まる。ゴロベエが蹴りで叱咤し、正気に戻される。“彼”だろうかと疑念はありつつ、人気のない森へ誘導した。鉄塊もとい安い機械化のサムライは姿を見たら追いかけられたと話す。雷電の刀振を避けつつ、主力をゴロベエに任せる。斬撃を軽々と避け、胴体を切り、無力化した。
— ❄翼@🍫延長戦 (@kuchuburank) February 22, 2021
七
機械化の成れの果てに覗き込む。そこにはなにもない。少なくとも“彼”ではない。安堵と同時に訝しげな目のゴロベエに話す。私は戦には行けなかったが、友は挑んだ。体を作り直してまでね。米好きの工兵に頼み、限りなく二人にか分からないところに名前を刻んだ。どうやら戻ってきたわけではなさそうだ。
機械化の成れの果てに覗き込む。そこにはなにもない。少なくとも“彼”ではない。安堵と同時に訝しげな目のゴロベエに話す。私は戦には行けなかったが、友は挑んだ。体を作り直してまでね。米好きの工兵に頼み、限りなく二人にか分からないところに名前を刻んだ。どうやら戻ってきたわけではなさそうだ。
— ❄翼@🍫延長戦 (@kuchuburank) February 22, 2021
八
ゴロベエは腕が疼いた。思い出せ。腕に刻んだものはない。あるのは記憶。剥ぎ取った名を思い出せと言わんばかりに腕から血が滴る。彼は気遣って心配するが声は届かない。託され捨てられた名とサムライを一人一人思い出す。「古神という名を覚えているか」「……あんたが、貴方が連れ戻してくれたのか」
ゴロベエは腕が疼いた。思い出せ。腕に刻んだものはない。あるのは記憶。剥ぎ取った名を思い出せと言わんばかりに腕から血が滴る。彼は気遣って心配するが声は届かない。託され捨てられた名とサムライを一人一人思い出す。「古神という名を覚えているか」「……あんたが、貴方が連れ戻してくれたのか」
— ❄翼@🍫延長戦 (@kuchuburank) February 25, 2021
九
「しかし、剣舞どころか真剣勝負を見世物にするとはな」揶揄する者はいたが私はからかわずにゴロベエの提案に乗った。時折、珍妙な面にはなるが剣劇に容赦はなかった。客寄せでも充分稼がせてもらい、別れの選別として軍用の支給品の刀を渡す。「ご冗談を」苦笑いしながらも受け取り、何処へ去った。
「しかし、剣舞どころか真剣勝負を見世物にするとはな」揶揄する者はいたが私はからかわずにゴロベエの提案に乗った。時折、珍妙な面にはなるが剣劇に容赦はなかった。客寄せでも充分稼がせてもらい、別れの選別として軍用の支給品の刀を渡す。「ご冗談を」苦笑いしながらも受け取り、何処へ去った。
— ❄翼@🍫延長戦 (@kuchuburank) March 1, 2021
十
奇妙なる男を見た。私と同じ高さの男が私の衣装を身に絡う。他芸者が陰間の化粧を手伝えと来れば、小柄な男と農民と大柄の男がいる。「またユキワカの世話になる」数年ぶりの再会にゴロベエが上げた手から剥ぎ取られたような傷が見えた。「任せろ!べっぴんに仕上げてやるよ」もう聞く必要はなかった。
奇妙なる男を見た。私と同じ高さの男が私の衣装を身に絡う。他芸者が陰間の化粧を手伝えと来れば、小柄な男と農民と大柄の男がいる。「またユキワカの世話になる」数年ぶりの再会にゴロベエが上げた手から剥ぎ取られたような傷が見えた。「任せろ!べっぴんに仕上げてやるよ」もう聞く必要はなかった。
— 🌸翼@やることいっぱい (@kuchuburank) March 14, 2021
おまけ
主人公の名前はユキワカマル。元ネタは山形の新品種の米「雪若丸」から。ゴロベエと並ぶ程背が高く同い年。美人のおっさん。武家でサムライの出だが大戦には行けず、友人の古神は大戦と共に行けなかったことを悔いてた。古神は機械化しており、姉はゴロベエと知り合い。ユキワカは美人の女装中年男芸人
主人公の名前はユキワカマル。元ネタは山形の新品種の米「雪若丸」から。ゴロベエと並ぶ程背が高く同い年。美人のおっさん。武家でサムライの出だが大戦には行けず、友人の古神は大戦と共に行けなかったことを悔いてた。古神は機械化しており、姉はゴロベエと知り合い。ユキワカは美人の女装中年男芸人
— 🌸翼@やることいっぱい (@kuchuburank) March 14, 2021
0コメント