千条姉へのお題は『月を見る猫・似合わない眼鏡・わざと掛け違えたボタン』です。https://t.co/H3GdJegK97
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月を見る猫
窓辺から眺めるのが日課になって何日経ったことか。私は数えることはしないけれども、あの子はきっと何日いるのか数えて、怒るのだろう。
あと何分間すると怒った顔で紅茶のセットを持ってくる。こんなのを飲むと寝付けなくなるだろと言って逸書に飲んでくれるのだから可笑しい子。
弟が来るのにそう時間は掛からない。それまで外に面白いものはないだろうか。
見つけた。
月を見る猫がいた。
またまた上を向いているようにも見えるけれども、私には上を、月を見ているように見えたのだ。
私も月を見たけれども猫が夢中になれるほど今は月に興味が持てない。「今夜は猫の集会かもしれないわね」
この猫には兄弟はいるだろうか。
すらりとした四肢は雌猫にも見えるが、もしかしたら雄猫かもしれない。あの弟の四肢はこの猫のように長いく細い。
この猫が他のきょうだい猫を待っているとしたら、弟ときょうだい猫、どちらが先に来るのだろう。
なんてことのない、ただの遊び。ただ待つよりも遊びを入れて楽しみたい。
「そうね、あの子が先に来なかったら、君たちの会議にお邪魔しようかしら」
当然猫にはその声は聞こえない。
私は少しだけ口角を上げる。
この場から立ち去ってあの子を困らせるのは過ぎたいたずらになるかしら。
空いた窓、私以外誰もいない部屋、監視らしい監視はなく、これで逃げ出さないと思っているのかとこちらが心配してしまう。
考え事をしている間に外の茂みから、がさりと何かが出てこようとする聞こえた。
「あら、困ったわね」
「何がだい?」
「…………」
後ろから弟が声をかけた。ドアをちゃんとノックしてから入りなさいといっているのに。
私はため息をつく。
「貴方っていっつもタイミングを知らないのね」
猫はどこかへ行ってしまった。
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似合わない眼鏡
お茶を飲んでいると姉が何かを思い出したような声を出した。
「ねえ、せっかくだから伊佐さんも誘うわ」「な」
弟の言葉を待たずに伊佐がいる部屋へ向かった。
机に付して寝る伊佐を見つけた。
眼鏡も掛けたままだ。よほど疲れていたのだろう。書きかけの書類が下敷きになっている。
「伊佐さん、眼鏡が歪んでしまうわ」
声を掛けるが、これは起こすためではない。
声を掛けられた伊佐は全く起きる気配がない。
姉は慎重に伊佐の眼鏡を外した。手に持ったまま、数秒間眼鏡を見る。
両端のつるを持ち換えて、眼鏡を自分に掛けた。
普段使わない物、自分のものでないものをこっそり使っていることに罪悪感よりも、高揚感の方が勝った。
縁がごつごつとして、厚いフレームにやや度の入ったレンズ。いかにも堅物がつけていそうな眼鏡で、眼鏡の好みが伊佐らしいと思い、笑みを浮かべる。
(私も眼鏡を作ろうかしら)
「姉さんには似合わない眼鏡だよ」
振り向くと姉を追いかけた弟がむすっとした顔で立っていた。
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わざとかけ間違えたボタン
最初にあったのは違和感だった。
「……む?」
伊佐が警護している要人がいつもとはなにかが違うのだ。
じっと見ていては相手に失礼なのでまじまじとは見ないように、違和感の正体をを探る。
(顔色は良いから、体調が悪い訳ではなさそうだ)
「なあに伊佐さん、私に何かついているのかしら」
にこにこと要人は伊佐を見つめる。
「いえ何も!」
すると要人は子供のようにそっぽを向いてしまった。
「伊佐さんは鈍感なのね!」
結局、伊佐は要人の意図が掴めず、ただ素直に謝って、更に彼女の期限を損ねてしまった。
「あれ?姉さん、ボタンかけ間違えているよ」
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