部屋は薄いカーテンがかかっている。部屋は薄暗く、資料を読むには見づらいが、伊佐には問題ない。ある事件にかかわった故に目が強い光に耐えられなくなっている故、却ってこの方が目が辛くないのだ。
元々薄暗い部屋にいたせいだろう。気が付けば夕方だった。
カーテンを捲ると、星が見えるほどの暗さになっている。視力が弱く、あまり星は見えないが一等星なら見える。
夕日と星空の間に何か流れ星が見えた気がした。
(願い事を三回言うと叶うか…。流れ星が流れる一瞬のうちに思い出せるほどの願いなら叶うから、叶えられるだったか)
願いはなくても執念はあるが、それは一体何時になれば叶うものか。
ドアがノックされ、「入るよ」と声が聞こえた。
「伊佐、そろそろ帰る時間だよ」
くしゃみの音が響いた。
季節は冬から春にかけて、寒暖差が大きい時期。伊佐はジャケットを着ておらず、千条は薄着。
「今のくしゃみはお前だぞ…」
「……違うよ」
「その鼻から垂れているのはなんだ」
伊佐は千条の服装に目が行く。
「千条、いくら俺の体調を気にしてくれても、千条の体調が悪いんじゃ意味がない」
「僕の体調はしっかりと僕が管理出来ているよ。風邪は引いてないよ。仮に風邪を引いていたら博士に診てもらうさ」
「それにしてもその服装は見ているが側が寒く感じるな…」
伊佐のこの発言に千条はふむと呟く。
「着ている本人は良くても見ている側の体調を左右してしまうとなれば、優先事項は変わるね。僕が来ている洋服は支給されたものだけど、必要ならば調達せよとも言われているからね。この場合僕だけの判断では伊佐が寒そうに見える問題は解消されないから、伊佐が同行して判断してもらうけど、仕事が終わった後は伊佐には予定はあるかい?」
つまるところ服を買いに行こうという誘いなのだ。
二人は有名なデザイナーが監修した服を置いているそこそこ人気の高い服屋へ来た。
「買いに来たはいいが、本当に俺が選んでいいのか?」
「勿論だよ。伊佐から見て寒くない格好だからね」
伊佐は服を幾らか見繕うが、顔をしかめる。ここの店は世界的な有名ブランドは取り扱ってはいないが、個人で出している洋服も取り扱っているせいか、千条が貰っている予算では買えないものがあるのだ。
予算を出してくれたとき、先に自分が預かって正解だったなと伊佐は思った。
0コメント