もう一人葉書如何でしょうか

伊佐さんと自分を呼ぶ声が聞こえる。声の聞こえる方を向くと彼女がいた。
「二人して葉書を書きあうなんてズルいわ」
隣にいる千条は凍ったように止まっている。他の人も停止している。動いているのは自分と、彼女だけのようだ。

 彼女は千条と伊佐の間に飛び込んで挟まり、両方の腕を掴む。伊佐は彼女に引っ張られて転びそうになるが、千条は停止したまま場所を動くことが出来ないらしい、飛び込んできた彼女の衝撃を押さえた。

 彼女は千条が停止していることに不服な様子を見せたが、仕方ないと小さく溜め息を付いた。

「それは悪かったな」

伊佐は彼女がこの場にいるわけがないことを理解していたが、久しぶりに話せることに嬉しさの方が勝り、何故ここにいるのかは追及しなかった。
 彼女が千条が持っていた葉書を奪い取る。勿論千条は停止しているので、奪われたことに気付いていない。

 葉書をくるくると裏表を交互に見ながら伊佐に尋ねる。

「ねえ、私にもくださらない?」

上目使いにねだり、まるで猫のようだ。

「伊佐?」
千条の声にはっと伊佐が気が付くと、彼女も消え、自分がいた場所も変わっていた。戻ってきた、らしい。
「どうしたんだい?ぼうっとして」
「いや」

伊佐は視線を下に向ける。千条も釣られて下を見る。

「おや、僕はいつのまに葉書を落したんだろう?」

千条が葉書を拾う間にもう一枚葉書を取る。

「なあ、千条」

「なんだい?」

千条と自分に間の空間を見ながら言う。

「もうひとりに宛てて書かないか?」


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