彼女はいつものように蝙蝠のようにぶらさがって彼を見つけると、溜め息をついた。しかし、それ以上は話しかけることも、近づくこともしない。彼の行動をさまたげてはいけないと思ったのだ。
彼はぶらさがっている。何本ものの鉄骨がジェンガのように重なっただけの鉄くずの山の端から伸びた一本に洗濯物のように足が掛かっている。その一本は
「そこの」
男にいきなり話しかけられ、生瀬は思わずびくっと一歩下がりかけるが留まる。
「足元にあるコンクリートの塊があるだろ。そいつをどかしてみろ」
生瀬は息を飲む。生瀬の足元にコンクリートの塊がある。その下にはピンと張ったロープが抑えられている。ロープの先を見ると、鉄くずの山まで伸びて、その先には男がぶらさがっている鉄骨の先端に結ばれている。
恐らくこのコンクリートをどかせばこの鉄骨の山は一気に崩れ、この男もただではすまされない。どういう仕組みか、この男が少し身を動かしただけでも、この鉄骨は崩れそうなほどこの山はぐらぐらと揺れている。
生瀬は一歩下がり、溜め息を付く。
「私はこんな所で貴方を殺したいんじゃないです」
「そうか」
揺れる鉄骨を全く気にせずに男は下りる。生瀬は思わず目を背けたが、鉄骨の山は大きく揺れただけで崩れることはなかった。
睨む生瀬を無視して男は歩いてくる。通り過ぎる瞬間、男は生瀬を見る。
「ちなみにこれは炭素繊維で出来ている。仮にお前がこれを切ろうとしてもとてもじゃないが常人には切れやしない。とてもじゃないが人間を止めない限り、切る事なんて出来やしない代物だ。残念だったな」
形だけ上げた口角は笑ったのか、それとも筋肉の痙攣による伸縮だったのか、生瀬には解らなかった。
最後に読んだのはいつにだったのか思い出せないうろ覚えで書いたのでパンゲアファンに殴られそうである。おっと、ここにちょうど糸が。
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