咲くのは次、僕は散る

 事件がひと段落付いて帰りの時の事である。千条が伊佐を送る為に車を運転している所だ。

 伊佐は千条と話す訳でもなく、ただぼんやりと外を眺めている。男女の、恐らくは恋人同士であろう二人組が見えた。それに四人五人と幾人か固まって移動する男子学生や女学生の団体も見える。時間帯を考えればいても可笑しくはないが、可笑しいのは向きである。

「千条、この集団の行く先に何があるか解るか?」

千条の頭に埋め込まれているチップには、地図のデータも入っている。カーナビよりもデータが多く入っている。伊佐に聞かれ、すぐに答えた。

「城下町だよ。時期を考えると、桜が咲いているから、桜を見にいっているのかもね。伊佐も見に行きたいのかい?」

「……いや…」

と、言いかけて

「行こう。どうせ千条も俺を送った後は寝るだけなんだろう?少し寄っても罰は当たらない」

 男二人だけでの桜鑑賞というとなんだかむさ苦しいと思った伊佐だったが、桜を見た途端吹き飛んだ。公園一面が桜の花びらで埋め尽くされ、気が付いたら賞賛の一言が出てきた。

「綺麗なもんだな」

千条もこういうのにはどういう反応をするだろうか。千条の方を向いた。千条は伊佐の視線に気が付き、ぽつりぽつりと言い出した。

「伊佐、知っているかい?ソメイヨシノは全国的にも多くあり、かつどれも同じ遺伝子をもっているらしいよ。殆ど似たような桜を咲かせていて、人為的に量産された桜だとね」

千条の台詞は桜を見に来させる為に大音量で流れているBGMでかき消され、伊佐はうまく聞き取れなかった。しかし、今言った千条の顔が酷く悲しげに見えたのは気のせいではないと思った。

 千条が桜を見ながら半ば呟きとも取れる言葉を言う。

「いつか、僕に埋め込まれたチップが完成され、量産された時」

『ぼくと同じモノが並べられた時、伊佐俊一はぼくといてくれるだろうか』

『ぼくの存在意義は果たしてどうなっているのだろうか』

言葉の途中で無言になった千条の雰囲気が明らかにいつもと違うので、伊佐は訝る。

「……おい、どうした?千条」

『きっとそんな事が実現されるよりも可能性が高い』

桜から視線を伊佐に移した。

「いつかぼくが故障して、スクラップになっても同じ性能のモノが来るから」

人が安心するという笑顔で言った。

「安心だね」

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