伊佐が非番に変わる時間の時だった。サーカム財団極東支部へ書類を出し、廊下から出る所で何かに躓いた。あの病院ほどでもないが、サーカムに支部もだいぶ他の建物よりもゴミが落ちていない。ましてや躓く程の大きい物が落ちていたなんてないとは思うが、躓いた人間がいるのだ。ゴミなら然るべき所に捨てて欲しいなど心の中で愚痴りながら後ろを振り返った。
一瞬、頭の中が真っ白になった。振り返る途中に細い糸が見えた。糸は掴んでいたらし。壁に隠れて見えなかった。片方は西秋有香がつかんでいて、もう片方は
「……何をしているんだお前ら……」
「何って悪戯だよ」
悪びれずに答えたのはもう片方を掴む千条だった。
事は最近サーカムに入った西秋有香と例の病院に入院している妹の真琴の雑談が発端である。伊佐の知らぬところで二人は知り合ったらしい。ある日、二人は雑談の中で真琴がイタズラしてみたい、もしくはされてみたいと言ってきたのだ。
「ま、まって!イタズラと言っても、あの足を引っ掛けるアレ!されてみたい!」
変な性癖はない子なのにと、曇りのない笑顔に釈然としないが
「真琴ちゃんはまさかマゾ……!?」
聞いてみた。
「違うよ!前にお兄ちゃんに仕掛けたんだけど、止められたの。」
この後も雑談は続いて、千条がやってきた。伊佐から代わりに真琴の容態を見手に行って欲しいということでやってきたのだ。有香がイタズラの件を話すと、
「伊佐に仕掛けてみましょうか」
と提案してきたのだ。
有香と千条は、本番は兄の方だ等、不穏な話をしている。後から、妹に友人から伝授されたイタズラされる兄を思うと少し哀れんだ。怪我はして欲しくない所である。
伊佐は頭を抱えて、こいつらをどう叱ろうかと思ったが、止めた。過去に千条の姉から似たようなイタズラをされたことがある。
今の千条の笑顔が、彼の姉にそっくりなのだ。
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